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留学生30万人計画と成長戦略「開国政権」が開いた「移民国家」への扉(3)

 安倍政権がアベノミクス「成長戦略」に掲げた「留学生30万人計画」は、不足する底辺労働者の受け入れ増加をもたらした。その経緯と手法について少し説明してみよう。

 「30万人計画」は2008年、福田康夫政権によって策定された。当時、約12万人だった留学生の数を。20年までに2.5倍に増やそうという計画である。

 ちなみに、「30万人」という数字に大した根拠はない。参考にされたのが、同じ非英語圏の先進国、フランスだった。フランスでは当時、高等教育機関で学ぶ学生のうち留学生が12パーセントを占めていた。ならば日本も約300万人の学生の1割程度は留学生にしてはどうかと、「30万人」という数字がはじき出された。つまり、ほとんど思いつき程度なのである。

 しかし、「30万人計画」は思うように進まなかった。11年に福島第一原発事故が起きた頃から、留学生の数が減少に転じたのだ。留学生全体の6割を占めた中国人が、日本から去り始めたからである。単に原発事故による放射能の影響を恐れたからではない。この頃の中国人留学生には、「留学」を出稼ぎに利用していた者が多かった。そんな留学生たちが、中国経済の発展によって、日本へと出稼ぎにくる必要がなくなったのだ。

 そこに誕生したのが安倍政権だった。「30万人計画」は、13年に閣議決定されたアベノミクス「成長戦略」の1つに掲げられた。すると留学生の数も一気に増え始める。12年末には18万919人だった留学は、7年後の19年末までに34万5791人へと2倍近くにもなった。ベトナムなどアジア新興国から大量に留学生が受け入れられた結果である。そして「30万人計画」も、20年を待たずに達成された。

 いったいどうやって留学生を増やしたのか。

 留学ビザは本来、日本でアルバイトなしに留学生活を送れる経済力のある外国人にしか発給されない。ただし、この原則を守っていれば、アジア新興国の留学生は増えない。そのため政府は、原則を無視して留学ビザの大盤振る舞いを始めた。そのカラクリはこうだ。

 留学希望者はビザ申請時、親の年収や預金残高の記された証明書の提出が求められる。ビザの発給基準となる金額は明らかになっていないが、年収と預金残高それぞれ日本円で最低200万円は必要だ。新興国では、かなりの富裕層でなければクリアは難しい。そこで留学希望者は、留学斡旋業者経由で行政機関や銀行の担当者に賄賂を渡し、証明書を捏造する。捏造といっても、行政機関などが正式に発行した“本物”の証明書である。ただ、金額だけが、ビザを得られるようでっち上げられている。

 たとえば、ベトナムの貧しい田舎に暮らす農民の年収が「300万円」といった具合に、あり得ない額の数字が証明書に記されているのだ。日本側で証明書を審査する法務省入管当局や在外公館にすれば、捏造は簡単に見破れる。だが、いちいち問題にすれば、留学生は増やせず、「30万人計画」も達成できない。そのため捏造に目をつむり、留学ビザを発給し続けた。

 政治が数値目標を打ち出すと、現場の官僚たちが必死で達成に努める。その過程では、辻褄合わせのインチキも起きがちだ。「30万人計画」の達成過程では、まさにそんなことが現実となった。

 安倍政権誕生からの7年間で、ベトナム人留学生は9倍の約8万人、ネパール人も5倍の約3万人へと急増した。証明書の捏造が黙認された結果である。

 こうしたアジア新興国出身者には、かつての中国人留学生たちがそうだったように、出稼ぎ目的の留学生が数多く含まれる。留学生には「週28時間以内」でアルバイトが認められる。そこに目をつけ、留学を出稼ぎに利用するのだ。

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『WEDGE』
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